一つの山は越えた・・・。

9月15日
13;00
こんなになるまで何で放っておいた・・・。無理矢理でも検査に連れて行くべきだった。
親としても大きな悔いが残る。
頑張って欲しい。負けないで欲しい。

15:00 まだ終わらない。長いという事は良い方に考えればいいのか?それとも悪い方・・。

16:45 やっと終わった。先生から呼び出しがかかった。
 先生は
〇破れていたのは大腸では無く小腸だった事。それをふさぎ、大腸にも滲みの有る場所が有り同じ様に処置。
〇胃のガンはやはり大きい。通りも細く成っている。大腸には人口肛門のバイパス手術を行った。現状の胃とバイパスした腸で出来るだけ早く体力を回復させ抗がん治療に入ろう。
目安は2週間後ぐらいか。
〇本人にはまだガンの事は話していない。
体力が回復して抗がん治療に入る前に本人に話して進めて行こう、と先生とは同じ認識を持ってもらった。
その時、雄一がどう思うかだけど、現実はもう受け入れるしかないからね。後はどれだけ積極的に成れるかだ。進行は早いけど、若いからまだチャンスは有るハズ。
劇的に人によっては効く場合も有るらしい。
もう60前の親より早くくたばってもらう訳にはいかない。何が何でも打ち勝って欲しい。

 暫くして有希子もひなたと一緒に来てくれて術後のICU室に入った。
雄一はもうエビさん状態から仰向けに寝かされ沢山クダを通されている。それでも一つの緊急の危機は脱してくれた。頭をなでるしか出来ないけど、後は早く回復を祈りたい。

 9月16日
10:30
朝10時過ぎにCPU室に行くと、11時には一般病棟に移る予定でそろそろ用意をしていた。
もうそれだけ安定しているって事?安心していいのかな。

その後、先生が来られて「昨夜は痛みや熱で余り眠っていないようです。血圧も一時60近くまで下がりましたが、色々処置をしてもらって今は130前後で落ち着いている。」
(事実、ICU室のモニターはそれぐらいを表示していた。)大変でしたけど山は越えたと思っている」とおっしゃってくれた。
 急な展開で大変だったが、確かに救命の山は越えた様だ。けど戦いはまだ始まったばかりだ。

 11;00
3階のICUからすぐに5回の一般病棟へ。といっても大部屋に移る前の術後の人達が暫く入る個室の病室だ。517号室。
 入ってすぐ、沢山の点滴などをセットし終わると入り口に見慣れない青年がノックをする。雄一の同僚の尾間君だった。初めて見る彼はとても健康的で体つきもいいしルックスももてるだろう、礼儀正しいし好青年だ。
彼が、雄一に会う前に通路で出てもらって確認すると、症状を知っているのは勤務する病院の同僚の中でもごく一部らしい。

 うなずくぐらいしか返事出来ない雄一に彼は優しく男友達らしく、励ましてくれていた。
昼過ぎには田舎のお兄ちゃんも来てくれた。万一の事が有っては、と連絡だけはしておいた。いつも優しい家族思いの兄貴だ。

 お昼すぎにはまた同僚の渋谷君も来てくれた。彼も真面目そうな礼儀正しい好青年だ。
雄一は、とてもいい同僚を持っている。彼らの期待にも何が何でも応えて欲しい。

 夕方、少し順調だった尿の出が少し悪い。血圧も下がっている。熱も出ている。雄一は夢遊病者の様にうつろな目で眠れず辛そうだ。
先生からアルブミン製剤を使いたいので了解して欲しい、と言われた。
それは血液中の水分を逃がさず、外の水分も取り込んで整流する作用が有るらしい。
今はその逆の事象に成っていて、水分が血液から体中へ出てしまって血圧が下がる、むくみと言う事象に成っているらしい。

 血液製剤はかつてミドリ十字など大きな訴訟問題になっているので、念の為の了解だそうだ。今はそんな事言ってる場合ではないしね。

 暫くしてそれを投与すると確かに血圧は上がって来た。効果は有りそうだ。
けれど雄一は体温も高く、痛みや鼻に通されている2本のクダが苦しく、口で呼吸をつづけると口の中が熱の影響も有ってすぐにカラカラに成る。
緊急ボタンを自分で押して「口、ゆすぎたい」と何度も訴える。だから殆ど眠れていないようだ。

 21:00
 暫く買い物に行って帰って来ると更に悪く成っている様だ。問いかけても目もうつろで返事もうなずきも出来ない、のか解らないのか。体温計では38.8度だが、腕も頭も異常に熱い。
全身の関節部分に氷のうを入れもらい、痛みどめも入れてもらって少しは良く成ったようだ。心配だけれども明日も有るし一旦帰るしかない。10時頃にスタッフにお願いして病院を出た。

 9月17日 3:00
 事前に野球の用意をして少し眠ってから出て来た。
雄一は良く眠っている。
ミン剤と言う睡眠安定剤みたいな物らしいが、それも投与してもらった様だ。少し安心した。
付き添い様の小さなベットとフトンを借りて寝ようとしたが、その眠りの重いこと・・・。
体の疲れも有って起きようと思っても頭が上がらない程、体が重く感じた。
7時過ぎ、何とか起きだして無理やり体を動かして顔を洗って野球の準備。
子供達が待っている。今日も頑張ろう。