大きな賭け

 昨日も本当に元気が無かった。
食事も少し、食べても栄養に成らない・・・そんな事を母親にはグチっている。

「おまえ、母さん泣かすなよ」
気持ちでは解っているようだが、態度には出て来ない。
相当ストーマには参っているようだ。
このままでは食べても食べても太れそうも無い。
短い腸では水分も充分に体内に吸収出来ない。

 雄一と「小腸のストーマを閉じるのは出来るかも知れないが、それは抗がん治療に2ヶ月ぐらいは穴が開くことになるし、成功してもこれは大きな賭けだぞ」
と話していた。本人は覚悟が有るのか・・・。
今週で治療は4クール目で、これで一旦終わり。次の治療の方法も、太らない事も、ストーマの事も話したかったので、昨夜に先生にアポをお願いしていた。

 昨日、子供の頃の話や色々していたので、今晩来ると昨日よりは少しましなような・・。
クダが出ていた所の皮がめくれて、それがストーマに当たって子供の様に痛がっている。ホントの痛みは本人しか解らないけど、こんな事我慢出来ないのかなあ。

 その頃先生も来てくれて手当てしてくれたので、納得していた。
その後に先生と雄一のこれからの治療の進め方で色々話をした。
先生も事情は良く理解されていて、僕の考えていた事と同じ事を考えてくれていたようだ。

 病院の倫理では人口肛門は6ヶ月後に戻すのが基準だそうだ。それ以前に戻すためには病院での審査みたいな会議が有って、それで判断されるらしい。
3ヶ月でも、と可能性としてはある。
ただ、腸がまだ完全でないだろうし、癒着も6ヶ月ぐらいしないと戻らないそうだ。ストーマから先の腸が大丈夫なのか、の検査も何回か必要。
ただ、まだ若いし戻す事が出来ればTS−1の経口剤も飲めるしそうなれば外来でも診療できる可能性がある。
 
 もし可能なら雄一の負担も少なくなる。大腸側のストーマは残るが、元気なら外出も出来るだろう。
治療の進め方も選択肢が広がる。
2ヶ月近くは抗がん治療が出来ない大きなリスクはあるが、それに賭けようと話を決めた。病院の審査や検査でOKが条件だけどね。

 すぐに同じように雄一にも話をした。
大きなリスクが有るのももう理解している。
話を聞いてすっきりしたようで、表情も明るくなった。
ひなたとお姉ちゃんが来てくれていて、大門で買って来てくれたイチゴとパインの大福を美味しそうに食べている。気持ちもけじめが着いたようだ。

 出来るとして、それは大きな賭けだけど、可能性を信じよう。
絶対大丈夫だ!